落ちてきた天使
皐月に引かれるがままマンションに着いた。


狭く、しんっと静まり返ったエレベーターに乗り込む。


私の激しい心臓の音が皐月に聞こえてしまいそうで、なんとか落ち着かせようと息を止めてみるけど無意味だった。


どこにも止まることなく、エレベーターは皐月の部屋があるフロアでドアが開く。


繋がれた手をぐいっと引かれ、追い掛けるように共用廊下を進んだ。


この時間、そこからの景色は最高に綺麗だ。


少し遠くに見えるビル群と繁華街。
それが放つ一つ一つの小さな灯りが集まるとこんなにも綺麗な夜景を生み感動や癒しを与えているなんて、その灯りの中にいる人達は思ってもいないだろう。


私が夜景に気を取られてるうちに、鍵を開けた皐月は私を部屋に引き摺り込む。


真っ暗な玄関で、バサバサっと荷物が床に落ちて。


私は再び皐月の腕の中に閉じ込められた。



「あ、あのっ……」



緊張がピークに達した。
足も声も胸も震えて、声が上手く出ない。


背中に当たる皐月の体温。
首元に回る細くて逞しい腕。


首筋から肩口までゆっくりと味わうように這う唇と熱を残す吐息。



擽ったいっていう表現じゃ、この感覚を説明しきれない。


ぞくぞくして、全身の細胞がざわめき立つ感じ。首筋に熱を与えられてるのに腰が疼く。




「ーーーあっ……」



やだっ……何、今の声……

ギュッと閉じていた口から自分のものとは思えないほどふしだらな声が漏れて、咄嗟に手の甲で塞いだ。



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