落ちてきた天使
「駄目。彩の声、もっと聞かせて」



私の耳に唇を当てた皐月は、口元を塞いだ手を退かしながら艶かしく囁く。


カァッと頬に熱が帯びた。
恥ずかしいはずなのに、胸が喜びで震える。



もう何も考えられなかった。


初めては痛いとか聞いたことがある。


怖くて結局最後まで出来なくて振られたとか、全然上手く出来なくて愛想尽かされたとか。


全部ドラマや雑誌で見聞きした情報で、いつか私にもその時が来たら不安になったり怖くなったりするのかなって漠然と思ってたけど。


今、私の中にそんな気持ちは芽生えていない。


それどころか。


ーーーこのまま皐月のものになってしまいたい、だなんて。




私は腕の中でくるっと皐月を振り返る。


途端に交わる視線。
予想以上に熱で揺れた皐月の瞳に胸が苦しくなる。


もっと触れたい。
もっと触れてほしい……



こんなこと女の私が言ったら、皐月はどう思う?


積極的な女は嫌い……?



欲情が胸の奥で渦巻く。


私の前髪を指で梳きながら「ん?」と優しい笑みを浮かべる皐月に、奥底で渦巻いていた欲情が勢いよく顔を出した。



「ーーー彩?」



皐月が一瞬固まったのがわかった。


それでも、突然首に顔を埋めるように抱きついてきた私を、よろめくことなく受け止めてくれて。


「どうした?」と、抱きしめ返してくれる皐月を泣きそうになるぐらい好きだと感じた。




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