落ちてきた天使
「……嫌い?」

「何?」

「女からこういうことするの……」



言葉尻が弱々しくなっていく。


恋愛経験値ゼロの私には、どうしたら男の人が喜ぶのかとか嫌がるかわからない。


男の人はお淑やかで従順な人が好きなんだろうなって勝手なイメージがあるけど、私は正反対の性格だし。


不安がいっぱいだ。
無意識に嫌われるようなことをしてたらどうしようって……



だけど、皐月はそんな私の不安な胸の内を一蹴した。



「俺は嬉しいけど?」

「ホント?」

「本当。好きな女に求められて嫌な男はいない」



皐月の答えが嬉しくて口元が緩む。


さらりと“好きな女”って言われたこともそうだけど、求めたらちゃんと受け止めてくれて、それ以上のものを返してくれたことが凄く嬉しかった。



「今までたくさん辛いことがあったのは施設長に聞いて少しは知ってる」

「え?」

「悪い。でも、彩を離さないと決めた時にお前の抱えてるものを俺が全部引き受けたいって思ったから」

「そう、だったんだ……」



多分、皐月が施設長に聞いたことはほんの一部だと思う。それでも、皐月が私の過去を知ってるってことに少し驚いた。


皐月に知られたくなかったわけじゃない。
いつかは話したいって思ってはいたけど。


まだ覚悟が出来てなかったのが本音。
皐月は私の過去を聞いて、どう思ったんだろう……



さっきまでの幸福感からのドキドキじゃなく、戸惑いから心臓が激しく鼓動を繰り返す。


きっと今、変な顔してる。
自分の意思に反して溢れそうな涙を堪えるために顔中に皺を寄せて。


とてもじゃないけど皐月に見せる顔じゃない。


私は顔を地面に逸らして、皐月から離れようとその胸を押す。


だけど、離れることを許してはもらえなかった。




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