落ちてきた天使
甘すぎないフローラルの香りが鼻を掠める。


これ……私と同じ匂いだ。


この間、一緒に買い物に行った時に柔軟剤を私が好きな香りに変えてくれた。


柔軟剤だけじゃなくて、シャンプーもリンスもボディソープも。


今まで皐月が使ってたやつで良かったのに、私が少しでも心地よく暮らせるようにと気を遣ってくれたのだ。


私が選んだ香りが好きな人を包み込む。
そこに皐月の自然な匂いが混ざっていて、カァッと頬が熱くなった。



皐月の放つ色気や言動に頭がくらくらする。
もう駄目……

限界が来て、腕の中で涙目になりながら皐月を見上げると、皐月は目を見張って唇を噛んだ。



「ーーーっ……その目、俺がお前を丸ごと貰う時まで禁止な」



私を丸ごとって……


もう……なんで皐月は言うことやること全部!一々甘いの……?


これが毎日続いたら、心臓が保たない。
私、本気で壊れちゃうよ……




「ね、ねぇ……ひとつ、お願いがあるの」



尋常じゃない胸の高鳴りを一生懸命抑えながら、なけなしの勇気を振り絞る。



「ん?」

「あのね……その…花火…」



さっきとは違う緊張感が私を襲ってくる。


好きな人をデートに誘うってこんなに難しいことなのっ……?


“花火を一緒に見たい”


たった一言。
それを言うだけなのに、言葉が出てこない。



「花火がどうした?」



花火と聞いてもピンと来てない様子の皐月。


くそぅ……キョトンとした顔がまた可愛いじゃないか……





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