落ちてきた天使
「帯、きつくない?」

「大丈夫です」



黒のストライプとモダンな大輪の花が入った紺地の浴衣を身に纏って、全身鏡に映る自分をまじまじと見つめる。


帯は両面小袋帯で、一方は目が細かいブラウンとベージュ、もう一方は目が粗いマゼンタとベージュの市松模様になっている。


今日は少しでも大人の女性に見られるように落ち着いた雰囲気が出るブラウンとベージュの市松模様を表にして胡蝶結びをしてもらった。



「あとはこれね」



最後に帯飾りを付けると、着付けをしてくれた天下一の女将さんは背後から私の両肩に手を置いて鏡越しに微笑んだ。



「はい、出来上がり。とっても似合ってるわ」

「本当にありがとうございました」

「ふふ。いいのよ。私も楽しかったもの。彼氏さん、彩ちゃんのこの浴衣姿見たら可愛すぎて失神しちゃうんじゃないかしら」



今日は待ちに待った花火大会。


自分では浴衣の着付けもそれに合う髪型やメイクも出来ないのでこの辺に着付けをしてくれる所はないか聞いてみると、女将さんが『私に任せなさい』と快く引き受けてくれた。



出来上がった自分の姿はまるで別人のようで、感動を通り越して唖然とした。


美容には全く興味がなくて、薄っすらファンデーションを塗り眉毛を整えてリップを塗るだけしかしてこなかった私が、女将さんの魔法によってほんの少し大人っぽく見える。


これなら皐月の隣りを堂々と歩ける。
いつもは妹に見られがちだけど、少しでも彼女に見られたら嬉しい。




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