落ちてきた天使
「えっ……⁈これをですか?」

「彩ちゃんにも今日の浴衣にも似合うと思うんだけど」

「こんな大事な物戴けません……」

「私はもう使わないと思うし、私の歳には少し子供っぽいから」



気に入らなかったわけじゃない。
むしろその逆で、とっても素敵だと思った。


でも、これはおやっさんと女将さんの思い出の品だもの。


女将さんがもう使わなくても、私なんかが貰うより大事に飾っていた方がいいような気がする。ううん、“気がする”じゃなくて絶対そうした方がいい!



「私ね、ずっと娘が欲しかったの。着付けをしてあげたり髪を結ったりするのが昔からの夢だった。でも生まれてきたのは男の子で、いい年して結婚もまだ。死ぬまでに孫どころかお嫁さんにも会えないかもしれない」

「そんなこと」

「だからね、娘のように可愛い彩ちゃんに貰ってほしいの」

「女将さん……」



本当に私が貰っていいのかなって迷いながらも、娘のようにって思ってもらえてることが嬉しくて鼻の奥がツンとした。



「着けてみてもいいですか?」

「勿論よ」



女将さんは嬉しそうに微笑むと。さっき結ってくれたお団子にかんざしを差した。


うん。やっぱり素敵。
今日の浴衣に合ってるし、このかんざしがあるのとないのでは雰囲気が大違い。


何割も増して大人っぽく優雅に見えた。



「ありがとうございます。一生大切にしますね」



また一つ、宝物が出来た。
それは目に見える物だけじゃなく、目に見えない絆も。


全てを失った私には、その一つ一つの存在が大きくて掛け替えのない物になった。




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