落ちてきた天使
ふと、幼少時代に暮らしていた家に視線を移す。


変わらずそこにある、かつての我が家。
そして今は別の誰かの“ただいま”の場所。


もし家族が事故に遭わなければ、私は毎年あの家から打ち上がる花火を見ていたかな。


近くに住むおばあちゃんとおじいちゃんも呼んで、庭でバーベキューをするの。


パパは家族のために汗を掻きながらお肉を焼いて、弟は花火よりも食べることに必死で。


おじいちゃんとおばあちゃんは寄り添って微笑みながら花火を楽しんで。


私はブランコに乗って軽く揺られながら花火を見上げるの。


隣りに乗るのは、ママ。


家庭菜園で採れた真っ赤なミニトマトを口に含んで、膨らんだ頬をママが笑いながら人差し指で押す。やめてよー、なんて言いながらママとじゃれ合って恋の話なんかしちゃったりして。

いつかはそこに皐月も加わって、パパとビールを飲んで……


至って普通の、幸せな、家族の絵。


もし、あの時私が我が儘を言わなければ、私が思い描くこの幸せは現実になっていたかもしれないのにーーー。



「ーーーー彩……?」



愛しい人の声が私を我に返らせた。


あ……私、泣いて……


焦点が合った視界はいつの間にかボヤけ、自分が泣いてるんだと気付いた。



「わ、私……何泣いてーーー!」



目尻に浮かぶ涙を慌てて手の甲で拭うと、ふわりと爽やかな香りが私を包み込んだ。



「皐月……?」

「我慢しなくていい。泣きたい時は泣いていいんだ」



大きな手のひらが私の頭をぽんぽんっと撫でる。


大丈夫だよ、俺がいる。
そう言ってくれてるような気がしたーーー。




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