落ちてきた天使
「頼むから……大嫌いだなんて言うなよ」
「彩お姉ちゃん!これどうやってやるの?」

「これはね、ここをこうして」



花火大会からあっという間に日は流れ、9月上旬。


空は快晴。残暑は厳しいものの、これから秋に向けて外の景色が徐々に変わっていくと思うと、夏が終わるのも少し寂しく感じる今日この頃。


私は朝早くから児童養護施設の子供達に混ざって、明日開催されるバザーの門の飾り付けや看板の作成、その他雑用を手伝いに来ている。



「ふふ。すっかりお姉ちゃんになって」



子供達に囲まれてる私を見て何やら嬉しそうに笑う施設長に、私もつられてえへへと笑った。



今施設に入所してる子供達とは洋平以外面識はない。初対面でいきなり現れた私に、最初っから懐いてくれてた子は少なくて、ほとんどの子達は人見知りをしていたり余所余所しかったりした。

だけど、そんな子供達も数時間一緒に作業してるうちにすっかり懐いてくれた様子だ。



「ななちゃん、ぬいぐるみ可愛いね。名前は何て言うの?」



中でも、特に懐いてくれたのは五歳になったばかりの女の子。

テディベアのぬいぐるみを肌身離さず持っているななちゃんが、真っ先に天使の笑顔で私をお姉ちゃんって呼んでくれた。



「ちーたんって言うの!ママに貰ったの!ななの一番の宝物なんだよ」

「ちーたんかぁ。可愛い名前だね」



ここにいる子達にはそれぞれ色んな事情がある。

親を知らない子、親がいない子、親と別々に暮らしてる子。

こんなに小さいななちゃんにも、それなりの事情があってここにいる。


私もそうだけど、過去のトラウマで他人とコミュニケーションを取るのが苦手な子も多い。

そんな中で、お姉ちゃんって笑顔で呼んでくれるのは本当に喜ばしいことだった。



「彩ちゃん、今少しいいかしら」

「はい?何でしょう」



施設長は明日の準備をしてる皆から少し離れたベンチに私を座らせると、一枚の紙をポケットから出した。



「これ、高校の先生から預かったの」

「あ……」



それは二学期の始業式の日に私が提出した進路調査票だった。







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