落ちてきた天使
「言われた事なんて気にすることないのよ?お父さん達は本当に彩ちゃんを愛してた。血の繋がりはなくなって、どこの家族にも負けないぐらい素敵な家族だったじゃない。お父さんとお母さんは、彩ちゃんのために遺産を使うなら本望だと思う」



施設長は、落ち込む私の背中を優しくぽんぽんっと撫でた。でも、私はうまく気持ちの切り替えが出来なくて、「はい…」と沈んだ声で苦笑した。


お父さん達が私を愛してくれてたのはわかってる。

こんな事にならなければ、私は迷わず大学進学を選んでいただろうし、お父さん達も決して私の選んだ道に反対はしないと思う。


だけど、今はその二人がいない。
近所の人達の言った事じゃないけど、私なんかが本当に使ってしまってもいいのかなって考えたことがあるのも事実だ。



「皐月君とよく話し合いなさい。皐月君は彩ちゃんと本気で生きてく覚悟でいる。私も彼なら彩ちゃんを任せられるわ。皐月君は彩ちゃんの気持ちを汲んだ上で、一番良い道に導いてくれると思うの」



皐月が導いてくれる。
一緒に歩いてくれる。

私もそう思う。
だけど、皐月に頼りっぱなしでもいいのだろうか。

これから先、皐月とずっと一緒にいたい気持ちは私も同じだけど、これは自分の将来のこと。

皐月と出会ってから、私は色んな所で皐月に頼りっぱなしで、何一つ自分で出来てない。

このまま甘えっぱなしなのは、なんか違う気がする。



「進路調査票、あと一週間待って下さるって」



施設長は私の手に進路調査票を握らせると、安心するような穏やかな笑みを浮かべて続けた。



「大丈夫。私も皐月君も、ここにいる皆もあなたの味方なのよ」



バザーの準備をしてる皆の所へ戻っていく施設長の背中から、手に残った進路調査票に目を移す。


【就職】の文字の下に残る跡。
進学しないと決めたはずなのに、それとは裏腹に調べていた大学。ここなら、私が望む勉強も出来てこの街から通える。

結局、大学を調べてるあたり、私の中で迷いがあった証拠だと思う。









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