落ちてきた天使
ごめん、と呟く。
すると、皐月は目をやや見開いて言った。



「あんま可愛いこと言うなよな」

「可愛いこと?」



私は可愛いことなんて何も言ってない。
ただ嫉妬心剥き出しの醜い感情を露わにしただけ……


きょとんとする私に、皐月ははーっとわざとらしくため息を吐く。


何かがっかりさせちゃった?呆れられちゃった?

内心焦りまくりの私。
滑稽な表情をしてたと思う。

そんな私の頬を両手で包み込むと、皐月は嬉しそうに覗き込んだ。



「泣きそうになりながら上目遣いでヤキモチ妬いただなんて言われたら、嬉しいにきまってんだろーが」



バーカ、と言いながら、額と額をコツンと合わせる。

皐月の前髪が擽ったい。
鼻先が触れ、吐息を感じ、包まれたままの私の頬は一瞬にして熱を帯びた。



あ、キスされるかも。

皐月の瞳がいつの間にか魅惑的になっていた事に気付いて鼓動が跳ねた。

ゆっくりと瞼を下ろす。
額が一度離れ、皐月が微かに息を飲んだのがわかった。


そして、ゆっくりと近付いてくる気配。
唇に全神経が集中する。


だけど、皐月のキスが降りたのは唇ではなく、前髪が掛かった額だった。



思い掛けないキスに恐る恐る目を開ける。
皐月は何かを堪えるように眉を寄せて私を見据えていた。



「皐月?」

「今はしない」

「え……」

「ちゃんと三橋の話をして、彩の不安が全部なくなるまで我慢する。って言っても、おでこにしちまったけど」



そんなこと考えてくれてたんだ。
私のために。皐月のけじめとして。


皐月の紳士な一面に、言葉では言い表せないような優しさと愛おしさが胸にじんわりと広がった。




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