落ちてきた天使
「それまで専務と話したことなんて一度もなかったし、あの人が下っ端の社員の名前や顔を覚えてるわけがない。なのに専務は俺が役員室に入るなり、あたかも以前から付き合いがあるかのように言ったんだ。『水臭いじゃないか。なんで今まで言ってくれなかったんだ?三橋商事のご令嬢と婚約したって』って」

「三橋商事?」



私でも聞いたことがある。
確か一部上場してる大手企業で、この間ニュースでどこかの企業と業務提携を結ぶとか結ばないとか。

社会のことはわからないことの方が断然多いけど、とにかく凄い会社だってことぐらいはわかる。

佳奈恵さんってそんな大企業の令嬢だったんだ……



「俺の父親が国会議員だってこともバレてた」

「それって佳奈恵さんが?」

「さぁな。でも、その時わかったよ。専務が三橋に媚びへつらってる理由が。俺らの縁談が上手くいけば自分ものし上がれるとか思ってたんだろ」



なんか話のスケールが大き過ぎて今一ピンと来ない、というかついていけない。

国会議員の息子と大企業の令嬢……

ドラマや小説の話を聞いてるみたい。
そんな凄い人達、私には一生関わりのない遠い世界の人だとばかり思ってたのに。



「何度否定しても無理だった。何としてでも俺らの縁談を取りまとめようと必死な専務に最後は呆れたよ。上手いこと言ってその日は役員室から逃げたけど。その翌日、転職後すぐに秘書課に配属されてた三橋が俺の部署に異動してきた。しかも、俺のアシスタント事務にだ」



何となくわかってきた。
その専務がネックなんだ。

二人の縁談を取りまとめようとして、専務が佳奈恵さんをわざわざ皐月のアシスタントにさせたんだと思う。

佳奈恵さんだけならともかく、専務まで絡んできたら蔑ろになんて出来ないし……


眉間を摘む皐月。

頭が痛いよね……
きっと悩み過ぎて疲れてるんだ。



「すぐに三橋を問い詰めたよ。だけど、何度もはぐらかされて。花火大会の日、一度だけ映画に付き合うのを条件に話してくれた」

「えっ……それは……デート?」

「ごめん。たった一度だけだったとはいえ、他の女と出掛けた。でも、映画を見て話を聞くためにカフェに入っただけで、やましいことは何一つない」


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