落ちてきた天使
胸が騒ついてる。
理由が理由だから仕方がないって頭ではわかってても、心がそうは思ってくれない。

私が女将さんに着付けをしてもらってる間、皐月は少し会社で仕事をしてくるって言ってた。

だけど本当は、佳奈恵さんと映画を見てたんだ……


皐月の嘘。正直、かなりショックを受けてる。

皐月のことだから他の女性とデートした後ろめたさ、保身で嘘をついたんじゃないってわかってる。

嘘をついて隠してたのは、私が傷付かないように。自分の所だけで問題を収めようとしただけ。

皐月がそういう人だってことぐらい私が一番知ってるのに、心がほぼゼロパーセントの“万が一”に怯えてる。


さっき皐月を信じるって覚悟を決めたのに……



「し、仕方ないよね……婚約者問題を解決するためだもん。うん、そうだよ。仕方ない」



半分…いや、ほとんど自分に言い聞かせるために言ったことだった。

なんで私はこんなに弱いんだろう……
もっと強くなれたら皐月にこんな顔をさせずに済んだのに。



「彩……」と、皐月が不安げに私を見つめる。
私はなるべく平静を装って笑みを浮かべるように努めた。



「それで佳奈恵さんは何て？」

「……三橋は俺の父親が結婚した女、八重さんの子供だった」



待って……父親の結婚相手の子供……？
それって、皐月のお父さんとの間に生まれたっていう女の子のこと？

つまり、佳奈恵さんは腹違いの妹に当たるの？



「三橋は八重さんが父親と結婚する前に未婚で産んだ子供だ。俺とは全く血は繋がってない。三橋の父親は三橋商事の社長。八重さんと三橋社長も幼馴染で、俺の母さん達と同様に婚約までしてたのにそれぞれ親の会社の事情で別れさせられたんだ」

「それぞれって、佳奈恵さんのお父さんと八重さんは同時期に政略結婚させられたってこと？」

「ああ。三橋社長も同じ頃、今の奥さんとの結婚が決まった。ただ、奥さんになる人は妊娠出来ない体だったから、跡取りが欲しい三橋の祖父に当たる三橋会長は、タイミング良く生まれてくる子供を無理矢理引き取った」

「無理矢理…」

「母親の八重さんと三橋を産まれて一ヶ月で引き離したんだ」






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