落ちてきた天使
顔中の筋肉をだらしなく緩めながら手を繋いで住宅街を歩いていると、《ウー、カンカンカンカン!》とけたたましい音を鳴らして、数台の消防車が私達を抜かして行った。



「どこかで火事か?」



続いて救急車三台。
そして、パトカーまでもがサイレンを鳴らして消防車が走り去った方向へ消えていく。



「あの消防車と救急車の数からして酷い火事っぽいな」

「そ、だね…」

「大丈夫か?」

「うん……大丈夫」



消防車を見るとやっぱり思い出すのはあの火事のことで、自分の鼓動が速くなっているのがわかる。

それでも、火を見たり焦げ臭い匂いを嗅いだりする時よりかはだいぶマシで、フラッシュバックすることはなかった。


胸に手を当てて心臓を落ち着かせるように軽く深呼吸をすると、皐月が繋いだ手を目線の位置まで上げた。



「今日はこのまま寝ようか」

「手、繋いだまま?」

「その方が安心するだろ?それとも」



皐月はそこで言葉を止めると、私の耳に口を寄せた。



「一晩、抱いてやろうか?」

「ーーーなっ…!」



皐月の艶かしい言葉と吐息が鼓膜を震わせ、ぞくぞくっと甘い痺れが全身を駆け巡った。

言葉の意味を理解して、瞬時に火が吹いたように赤くなる頬。


な、何を言っちゃってるのこの人はっ…!
まさか本気⁉︎それとも冗談⁉︎

本気にしても冗談にしても、声も吐息も異常なほど色っぽ過ぎて心臓が口から出ちゃいそうだよ……


ニヤリと艶っぽく笑う皐月。
真意が見えなくて、ただただ目を大きく開けて固まっていると、「クククッ」と皐月が肩を揺らして笑い出した。



「驚き過ぎだっつーの」

「だ、だって……今の……本気?」

「俺はいつでも本気。卒業式にお前を貰うって言ったけど、今すぐにでも彩が欲しいっていつも思ってる。でも、今回は半分冗談。そう言えば、お前の頭ん中俺で埋め尽くされるだろ」





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