落ちてきた天使
ビクッと肩を大袈裟に揺らし動きを止める。

麻痺していた思考が一瞬で正気に戻ると、自分が仕出かした大胆な言動に一気に恥ずかしくなった。


皐月は喉の奥で「くっ…」と悔しがる声を鳴らすと、これまでにないぐらい盛大なため息を吐いて私の上から退いた。



「ちょっと出てくるわ」

「……う、うん。その方がいいかもっ」



ハハハ、と乾いた笑い声がついつい漏れてしまう。

皐月だけじゃない。
私もかなりがっくりしてる。

精一杯の勇気を出して大胆に皐月を求めたのに、まさかこんな形で邪魔をされるとは……



「はああぁぁぁ〜………」



皐月の背中を見送った後、無意識に皐月よりも長いため息が漏れた。


いつの間にか乱された服を泣く泣く直すと、消えたテレビに映るボサボサ頭の自分が目に入る。

お風呂上がりで勿論スッピン。
最近、ろくに寝てないから肌も過去最高に荒れてる。

こんな醜い姿で、皐月とあんなこと……

急に自分が情けなくなって、ソファの上で膝を抱き締めるように小さく座ると。



「ーーーおいっ!待てよっ!」



皐月の叫び声とほぼ同時に、リビングのドアがバンッと激しい音を鳴らしながら大きく開いた。



「っっ……佳、奈恵…さん?」



驚き過ぎて、声がちゃんと出なかった。

ここにいるのも勿論驚いたけど、それ以前に佳奈恵さんの変貌ぶりに目を見張った。


印象的だった長く艶やかなストレートの黒髪は、いつから櫛で梳かしていないのかボサボサに乱れ。以前は綺麗に口紅が塗られていた唇はカサカサ。

スッピンで、頬に数個のニキビ。
大きな隈と、覇気がない瞳。

バザーの日に初めて会った時と今とじゃ全くの別人過ぎて、一瞬誰かわからなかった。



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