落ちてきた天使
「…んで……たなのよっ……」



佳奈恵さんがふるふると身体を震わせて呟くように何か言った。

私はうまく聞き取れなくて「え?」と聞き返すと、佳奈恵さんは私をキッと睨みつけながら大股で私の前まで来て、右手を大きく振りかぶった。



パチーン!!!



乾いた高音が部屋に響いた。



「っっ!」
「彩っ!!」



声にならない悲痛な叫びと皐月の驚いた声が重なる。

頬がピリリと痛い。
熱を帯び、多分真っ赤になってると思う。


佳奈恵さんが部屋に入って来てから今まで、何が起こってるのか今一理解出来なくて、頬に手を当てたまま動けなかった。



「おい!お前何やってんのかわかってんのか⁉︎」



皐月がすぐに佳奈恵さんの肩を掴む。思いの外、力が強かったのか、その拍子に佳奈恵さんはよろめき床に倒れ込んでしまった。



「大丈夫か⁉︎」と、心配そうに眉を寄せる皐月に、「う、うん……」と反射的に答える。

だけど、頭の中を占めてるのは佳奈恵さんの変貌振り。

私から見たら、彼女は大人で余裕がある人。自分に自信があって、こんな風に取り乱したりなんてしない。

なのに、今目の前にいる佳奈恵さんは全くの別人だ。

何がそうさせたのか……

まだ蹲る佳奈恵さんをただ呆然と見つめていると、皐月が声を掛けた。



「三橋、悪い。強く掴みすぎた。大丈夫か?」



そう言いながら、佳奈恵さんを起こそうと手を伸ばす皐月。だけど。



「触らないでっ!」



佳奈恵さんはその手を思いっきり払った。



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