落ちてきた天使
「どうしてあの子なのっ……?」



今にも消えそうな震えた声。
辛くて辛くて堪らない。そんな声色に、心臓が爪を立てられたようにギリッと痛くなった。



「私の何が駄目なの……」



佳奈恵さんが顔を上げた。
目にいっぱいの涙を溜めて、その瞳は真っ直ぐに皐月を見つめていた。

そして、すぐ側で立ち尽くす皐月の足に縋り付きながら、嗚咽交じりに言った。



「私の、何がっ…いけないの?わたしは……、皐月に釣り合うようにっ、いっぱい努力…したの…っ!勉強して、自分も磨いて……好きなテレビも漫画も、お菓子も全部っ……あなたに好きになってもらいたいから我慢したのにっ……」



佳奈恵さんの皐月に対する想いが胸に突き刺さる。


嫉妬なのか、同情なのかわからない。
でも、凄く痛くて悲しくて、無意識に涙が出た。



「何か言ってよ……ねぇ皐月ぃっ‼︎」



何も答えない皐月に、佳奈恵さんは掴んだ足を揺さぶりながら声を荒げた。

胸が引き裂かれそうな叫びだった。
佳奈恵さんの強い想いに私は言葉を失ったまま、まるで傍観者のように二人を見つめた。



「……離せ」



やけに静寂な部屋に、皐月の声が響く。

同情すら感じない冷たい言葉に、思わず「さ、つき……」と口から漏れた。



「離せ、三橋」

「っっ……」



私から皐月の顔は見えない。
だけど、佳奈恵さんが目を丸くして息を飲んだのはわかった。

そして、おずおずとその手を離した。


皐月らしくない。
だって、皐月は言葉は乱暴だけどとても優しい人だから。

本気で向かってくる人には本気で返す。

それは、告白の場面でも変わらないと思ってた。


でも、今の皐月は違う。

佳奈恵さんの本気の想いに、本気で返していない。
冷たく引き離してるだけで、全く優しさなんて感じなかった。



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