落ちてきた天使
あれからまた、忙しい日々が続いた。

皐月はいつもの調子に戻り、私も忙しさのあまり佳奈恵さんのことを忘れていった。


一人、二人と、日に日に旅立っていく子供達。

そして、とうとう最後の二人。
夢ちゃんとななちゃんとの別れの時が訪れた。



「夢ちゃん、ななちゃん……」



最後は最上級の笑顔でって思ってたのに、涙が次から次へと溢れてくる。

知らない土地に行く。
施設で出来た家族と離れ、知らない人達との生活が始まる。

不安で堪らなくて、泣きたいのは二人の方で、私はそんな二人を勇気付けなきゃいけないのに。

どんなに涙を飲み込もうとしても、止めることが出来ない。



「お姉ちゃん泣かないで」



まだ小さいななちゃんと目線を合わせるようにしゃがみながら泣く私を、ななちゃんは頭を撫でてくれる。

私ばっかり泣いちゃってる。

ななちゃんは強い。
こんな小さいのに、私よりも強い。



「ごめっ……ごめんね、お姉ちゃんがしっかりしなきゃいけないのにね……」

「お姉ちゃん。これは別れじゃないんだよ。また絶対会えるから。だから泣かないで?」



施設長が退院の日に皆に言った。


“絶対にまたここで皆で暮らそう”


どのぐらいかかるかわからないけど、絶対にまたこの地に施設を再建する。

そう施設長は皆の前で誓ったんだ。


だから私は、大学に進学して人一倍勉強して、早く大人になって。

少しでもこの施設の再建の手伝いをしたい。


それが今の私の夢だ。



ななちゃんは、まだよくわかってないと思う。
施設の再建がどれぐらい大変で、長い時間が掛かってしまうこと。

でも、それでいい。
今は何も知らなくていい。

ただ、未来の約束があるだけで希望や勇気になるから。



「そうだね。お姉ちゃんも頑張らなきゃ」



小さいななちゃんの手を握って、沢山の愛情を送る。

この先、ななちゃんがこの天使のような笑顔を絶やさないように祈りながら。




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