落ちてきた天使
「あなたは私の自慢の娘だって言ったでしょう‼︎‼︎」



施設長の目からボロボロと次から次に無抵抗に落ちていく涙。


初めて見るその涙が、私の記憶から色んなことを思い出させる。


初めて出会った日、私が里子に出される日、様子を見に来てくれた真夏の日、お父さんとお母さんの葬式の日、そしてこの街に戻ってきた日。

数えきれないほど、施設長は辛い時にいつも私を支えてくれた。
時に母のように、時におばあちゃんのように。
本当の娘のように可愛がってくれてた。


こんなに大切に思ってくれてる人達がいるのに、一人で悩んで一人で結論を出して逃げた。

もっと早く相談していたら、他の道があったかもしれないのに。


不幸の星に下に生まれた私。

でも、それは勝手に私が思い込んでるだけで、私の周りにはいつも優しさと幸せが溢れてた。



「ごめ……っ、なさい……ほんと、に…っ、ごめんなさい……」

「良かった……本当にっ、無事で良かった……」



私よりも小さい施設長が、私を包み込むように抱き締める。

身体は小さいはずなのに大きくて安心する偉大な温もり。

私は子供のように泣きじゃくった。



「おかえり、彩ちゃん」

「っ、ただいま、施設長」



おかえりとただいま。
いってらっしゃいといってきます。


この言葉を言い合える人がいる。
こんなに幸せなことは他にないかもしれない。

家族がいれば当たり前の日常の中の一コマに過ぎないかもしれない。

だけど、当たり前だと思ったらダメ。

当たり前なんてないんだから。


私はそれをわかっていたはずなのに、いつの間にか甘えて麻痺して忘れてしまっていた。



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