落ちてきた天使
「彩が失踪した理由、あの時は正直よくわからなかった。忙しくて一緒にいる時間が少なかったらから怒ったのか、とか色んなこと考えたけどどれも失踪するほどの理由じゃなかった。ただ、ある一つを除いては」

「一つ?」

「三橋佳奈恵との婚約話だよ」



皐月の口から久しぶりに聞く佳奈恵さんの名前に胸が騒いだ。

どんな結果であれ受け入れる。
そう決めたけど、不安の波が襲って来る。



「あの時、三橋とのことで色々とゴタゴタしてたから、もしかしたらそれを知ったんじゃないかって思った。彩がいなくなる前の晩、洋平と彩の様子がおかしかったのも変だと思ってたし。だから、三橋を問いただしたんだ」

「……佳奈恵さんは何て?」

「最初、何か話したかって聞いても否定された。けど、やたらと彩のことを気にして来るから、何か引っかかって彩がいなくなったことを話したんだ。そしたら、私のせいだって泣き出して……全部話したことを認めた」



佳奈恵さんには皐月に言わないように一応お願いしておいたけど、多分皐月が私が街を出た理由を知る時は佳奈恵さんからだろうなって予想はしてた。

佳奈恵さんはきっと黙ってられない。

根は皐月みたいに優しくて責任感のある人だから、私がいなくなったなんて聞いたら尚更だろうなって思ってた。

佳奈恵さんを責める気なんて全くない。
ただ、私のせいで傷付けてしまったことを悔やんだ。


「三橋から話を聞いた後、すぐに洋平の所に行ったら……殴られたよ。皐月兄ちゃんはあいつの何を見てきたんだって」



皐月はふっと自嘲するように笑いながら言った。そして、「彩」とブランコから立つと、深々と頭を下げた。



「すまなかった」

「皐月…?」

「俺はお前を傷付けたくなくて、全部一人で解決しようとしてた。結果、逆に傷付けて辛い思いをさせた」



俯きながら拳を震えるぐらい強く握り締める姿に、皐月の後悔の念がヒシヒシと伝わってくる。

何て声を掛けたらいいのかわからなくなって、何度も首を横に振った。





< 261 / 286 >

この作品をシェア

pagetop