落ちてきた天使
「本当はすぐにでも迎えに行きたかった。だけど、洋平に殴られて冷静になったよ。彩が何で何も言わずに俺の前からいなくなったのか、俺が今何をしなきゃいけないのか」



そこで言葉を止めると、皐月は「はぁ」と長く息を吐いた。



「情けねぇな。俺、専務に突きつけられた条件に身動き出来なくなって自分を見失ってた。お前まで俺の前からいなくなって更におかしくなって。洋平に殴られて正気に戻るなんてな」

「ごめんね、私がいなくならなければ、」

「バーカ、謝んな。彩は何も悪くねぇだろ」



私の言葉を遮って、皐月は私の頭をぐりぐり揺さぶった。

緊張と不安の合間の皐月の微笑みに、ほんの少し心が安らぐ。



「まずはこの問題を解決してからじゃないと迎えになんて行けねぇなって思って。辞表片手に、俺は三橋とは結婚出来ないって専務にはっきり言ってきた」

「えっ……そんなこと言って大丈夫だったの?解雇とか、施設のこととか」



全ての元凶は専務。
そして、八重さん。

この二人は自分の権力を振りかざして、欲望のままに弱い立場の人間を脅し、財や地位を得ようとしてる。

汚くて狡い大人だ。


こんな人達に踊らされ、逃げる道しか選べなかった一年5ヶ月前の私。

悔しいけど、この二人には私達よりも力があるのは認めようがない事実。


そんな専務に刃向かうようなことを言って皐月の立場が危うくなりはしなかったのか、胸が一気に騒ついた。



「俺のことはどうなったっていい。仕事なんて今のとこじゃなきゃいけない理由なんてない。それに、施設長にも尻叩かれたんだよ」

「え?」

「施設再建のことをあなた達子供に心配されるほど老いぼれてないわよ!好きな女一人守れないで何大人の男振ってんの!自分達の幸せだけを考えなさい!って」




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