落ちてきた天使
「そんなことを施設長が?」



「ああ」と頷く皐月。
怒られたはずなのに、どこか嬉しそうに顔を緩めると照れたように言った。



「初めてだったかも……親に怒られるって結構いいな」



施設長の言動には愛が詰まってる。
親の愛、家族の愛。

私達、施設入所者と施設長とは当然のことだけど血の繋がった家族じゃない。

なのに、それ以上に大切にしてくれてる。

それは、施設を退所した私や皐月にも変わらずに平等に。



「彩を失うこと以外、怖いものなんてなかった。彩をこの手でもう一度抱き締めるためなら、俺は何だって出来ると思った」

「皐月……」

「でも、結局俺は無力だった。専務に横領疑惑をでっち上げられたり、施設再建も役所に申請中の書類が急に受理出来ないって言われたり。足掻いても足掻いてもどうにもならなくて、自分の無力さを心底妬んだ時……助けられたんだ。あいつに」

「あいつ?」



皐月の声が若干低く強張った気がした。
そして、皐月の嫌悪感剥き出しの表情から思い浮かんだ人物。

“あいつ”、それは皐月のお父さんだ……



「ある日の朝、専務が横領罪で逮捕されたってニュースがやってた。急いで出勤したら警察と報道陣で騒然としてて、電話は鳴りっぱなし。社員はその対応に追われてた」

「全然テレビなんて見てなかったから知らなかった……」

「俺が会社に着いた途端、部長に社長室に行くように言われた。一社員の俺が社長室に呼ばれるなんて、普通あり得ないだろ。横領疑惑でっち上げられてて、専務が横領罪で逮捕された翌日のタイミング。とうとう解雇かって覚悟して社長室に行ったら、あいつ……父親と三橋社長がいたんだ」



やっぱり、お父さんだった。
それと三橋社長って、佳奈恵さんのお父さんだ。

つまりこの二人が利用されていた我が子を助けたってことだろうか。



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