落ちてきた天使
「どうやら社長は専務のことをずっと怪しいと思って内々で調査してたらしい。だけど、なかなか尻尾を出さなくて難航してた所に、娘の結婚話を不審に思った三橋社長が訪ねて来た」



黒だと確信した皐月の会社の社長は、専務と影でこそこそしてる八重さんの存在を三橋社長に聞いた。

そこで、お父さんにも連絡を取り、専務と八重さんの悪事が判明し逮捕に至ったというわけだった。



「専務は逮捕されたけど八重さんは?」

「あの人は専務が横領してたことを知らなかったらしい。専務も取り調べであの人は関係ないって言ってる。ただ専務が横領した金をあの人に貢いでたって話」

「そう、なんだ……」

「ま、実際の所はわかんねぇけどな。あの人は会社が違うから確かに直接は何も出来ないかもしれない。だけど、専務が横領してたことを知らないってのはあり得ないだろ。つーか、専務を唆したのはあの人だと俺は思ってる」



専務を唆す。
専務が横領したお金を八重さんに貢ぐ。

それって……



「……二人は元恋人同士だよね?」

「みたいだな」

「専務は多分、まだ八重さんのことが好きなのかな」



それだったら凄く悲しい話だと思う。
八重さんも専務が好きだったのか、ただ利用しただけなのか、それはわからない。

だけど、少なくとも専務はそうすることしか出来なかった。

相手は既婚者で、しかも国会議員の妻。
振り向いてもらうのに必死だったのかもしれない。歪んだ愛だと思った。



「あの人のことは父親がしっかり見張ってるからもう大丈夫だ。彩を一人にさせるっていう脅しはもうして来ない」

「そんな心配はしてないよ。それに見張るだなんて…」

「父親が言ったんだよ。“すまなかった。私が長年放っておいたのがいけなかったんだ。今後はしっかりと見張っておくから、今回の件は許してくれないか?”って。父親なりにあの人のことを想ってのことなのか、世間に妻の騒動が公表されたらマイナスイメージに繋がるから必死なだけか」




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