落ちてきた天使
“きっと前者だよ”

そう言いたかったけど、皐月が辛そうな顔をしていたから口を噤んだ。



皐月のお父さんが心のない人だとは思いたくなくて前者だと言いかけた。

だって、こうやって皐月を助けてくれたんだもん。

国会議員で多忙な人が秘書を遣うのではなく、わざわざ自分の足で、しかも長年離れて暮らし自分を嫌っている息子の会社に会いに来た。

それって、やっぱり皐月を自分の手で守りたかったからでしょう?


奥さんのこともそう。
見張るだなんて言い方してるけど、本気で大事に想ってるんじゃないかな……

自分が放っておいたこと、後悔してるんだ。



だけど、それって考えてみたら皐月にとっては酷だ。

お父さんはお母さんとは違う女性を妻にした。
それだけでも心の整理が出来ないのに、更にお父さんは妻が悪いことをしても見捨てずにこれからも見守っていくと言った。

お母さんは妊娠中に見捨てられたのに。

お父さんの口から直接、お母さんとは違う女性のための謝罪と許しを乞う言葉を聞いた皐月。

辛くないはずがない。



「その後すぐに施設再建の書類が通った。滞っていたこともスムーズに進んでる。多分、あいつが何かしたんだろうな」

「そっか…良かった」



恐らく奥さんが再建を阻止しようと手を出していたことを、お父さんが正してくれたんだと思う。

安心した。
これで邪魔をされてた分遅くなってしまうかもしれないけど、子供達が帰ってこれる。



ホッと胸を撫で下ろした時、皐月が「彩」と私の名を呼んだ。



「俺は今回、自分で何も解決出来なかった。彩を迎えに行きたくても居場所もわからない。結局、俺は無力でただ大人ぶってただけの情けない男だった」

「そんなことない。皐月は無力なんかじゃない」



だって、私は何度も皐月に助けられた。

皐月の優しさに救われた人は絶対私だけじゃないはずだ。



< 265 / 286 >

この作品をシェア

pagetop