落ちてきた天使
「ありがとう。でも、俺は自分を許せないんだ。母親を捨て違う女を取った男に助けられ、好きな女一人も守れない自分が」

「皐月……」

「こんな俺じゃ、この先彩を幸せにしてやれない」



目を閉じて言った皐月に、私は目の前が真っ暗になって息が止まりそうになった。


私は皐月と別れてマンションを出た。
今の私達は恋人同士でもなんでもない。

なのに、そんなこと言わないでって縋りたい衝動に駆られる。

それほど皐月の言葉が胸に刺さって痛い。



「っっ、」



泣く資格なんてないんだ。

別れを選んだのは私なんだから……

さようならを言われても受け入れなきゃ駄目。
泣いちゃ……駄目、なのに……


涙が込み上げてくる。



嗚咽が漏れないように唇を噛み締めて俯いた時、「だけど」と皐月が口を開いた。



「俺……お前が側にいないと息が出来ねぇ……」



思いがけない言葉だった。

驚いて顔を上げると、涙がたっぷり溜まった皐月の真っ直ぐな瞳と目が合った。



「さ、つき……」



全身が心臓みたいだ。
震えてる……ドキドキしてる……

驚きと嬉しさの波が同時に押し寄せてきて、言葉が出てこない。



「戻ってきてくれないか?うちに……俺の隣りにーーー、っっ‼︎」



皐月が言い終える前に、ブランコがガチャンッ!と大きな音を立てて揺れた。

皐月の首にギュッと隙間がないぐらい強く抱き着く。



「あ、や……?」

「私も同じだよ……皐月がいない人生なんて意味ないの」



皐月の鼓動を感じる。

鼓動だけじゃない。
体温、息遣い、匂い、肌触り。

皐月の全てを感じて、更に涙が溢れた。




「情けなくていい……弱くていいから。全部を見せてほしい」



皐月は情けなくなんかない。
私には勿体無いぐらいの素敵な男性だ。


だけど、そんな皐月が自分のことを“こんな俺”って蔑むように言った。

そんな悲しいことを言ってしまうぐらい傷付いて弱ってる。

なら、それを私が軽くしてあげたい。
皐月が私の背負った過去を一緒に背負うって言ってくれたみたいに。



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