落ちてきた天使
施設を出ると、私達は施設跡地に向かった。



「皐月君、彩ちゃん、今日は来てくれてありがとね」



敷地内に車を停めると、すぐに施設長が満面の笑みで出迎えてくれた。



「とうとうこの日が来ましたね」

「そうね」



施設長と並んで更地になった敷地内を感慨深く見渡す。

あの火事で建物は全焼した。
遊具や倉庫もなくなり、残ったのは敷地をぐるりと囲う塀のみ。

今はその敷地の真ん中に南向きに設えた祭壇があり、注連縄が周囲と神聖な場所を区切るように四方に張り巡らされている。


そう、今日は地鎮祭が執り行われるのだ。


火事から長い時間が経った。
その間、施設長や職員が再建に向けて走り回って、やっと建物の着工までたどり着いた。



「全焼した施設を見た時、途方に暮れたけど……なんとかここまで来れたのは、皆が頑張ってくれたからよ」

「そうですね」



本当に大変だったと思う。
施設の再建だけじゃない。火事事件の処理から入所していた子供達の転所の対応。

特に施設長は休む暇なんてなかったんじゃないかなって思う。

こんなに優しくて思いやりのある人だから、仕事の合間に転所した子供達の様子を見に行ったりもしてたはずし。


私は手伝うとか力になりたいとか言っておきながら、ほとんど何もせずにこの街を離れてしまった。

今思うと、あの行動は本当に子供だったって自分を責めずにはいられない。



「彩ちゃんもよ」

「え?」



自分のことを責めた私に気付いたのか、施設長は私の顔を覗き込みながら穏やかに言った。



「自分がこの街を離れることで、施設を守ろうとしてくれたでしょう」

「あ……あれは」





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