落ちてきた天使
「これ、全部貴方が作ったんですか」

「そうだけど何?」



怪訝そうに眉を寄せる松永皐月。


何?って、驚いてるんです。
まさか、こんな料理を作ってくれるなんて思ってもいなかったんです。



男は既に喉をゴクゴク鳴らして、缶ビールを飲み始めている。


私は「いただきます」と手をあわせると、おずおずとフォークにパスタを巻いて一口食べた。



「……美味しい」



自然と口から出た素直な感想だった。


少しトマトの酸味を残したまろかやなクリームソースが平たいパスタによく絡んでいる。


オニオンスープは何処かホッとするような味だ。



もう一度パスタを口に運ぶ。
何度も何度も巻いては運んで。


料理から上がる白い湯気。
鼻を掠める香り。



胸が詰まった。


何日振りだろう……
こんなに温かい料理を誰かと食べるのは。




あの火事以来、一人だった。


お腹は空くのに食べる気になれなくて、食べても冷えたコンビニのおにぎりを無理矢理流し込むだけ。


暗くて人からは見えないような所で一人ひっそりと食べてた。



「これ…ホントに、美味しいです……」



味ももちろん美味しい。
だけど、それだけじゃない。


明るい所で、誰かと一緒に、温かい料理を食べる。


そんなことが凄く凄く嬉しかった。




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