落ちてきた天使
フォークを持つ手に涙が落ちる。


顔を上げられない。


きっと涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ。
この人に言われた通り女として終わってる顔だ。



松永皐月は何も言わない。
部屋には私の嗚咽だけが響く。



呆れてるんだろう。
一日何回泣くんだよコイツ、って面倒臭くなってるのかもしれない。


家に連れて来たことを後悔してる頃だ、きっと。



だけど私の予想とは違い、男はふっと笑うと、突然私の頭に大きな掌をぽんっと置いた。



「なら沢山食え」



意外な言葉と柔らかい声色に驚き顔を上げる。


松永皐月は目を細めて優しく微笑みながら、吸い込まれそうな真っ直ぐな瞳で私を見ていた。



「……っ‼︎」



心臓がドキッと跳ね上がった。

この人の笑った顔……ホント心臓に悪い。
まさにデススマイル。これが無自覚なら相当タチ悪い。



「……笑わないの?」



何泣いてんだよって…
鼻水垂らして汚ねぇなって、馬鹿にされるかと思った。


面倒臭いからやっぱ出てけよって言われるかと思ったのに。


松永皐月は馬鹿にするどころか、私を慰めるようにぽんぽんっと頭を撫でてくる。



「笑わねぇよ」

「でも、」

「お前我慢し過ぎ。高校生なら高校生らしく少しは周りに甘えれば?」

「高校生らしく?」

「俺にはお前がすげぇ無理してるように見える」



「違うか?」と、男は私の気持ちを見透かすようにジッと見つめてくる。




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