落ちてきた天使
「はああぁぁぁ〜……」



一晩経って頭が冷えた私は、盛大にため息を吐いた。



昨晩はどうかしていた。
松永皐月のことをもっと知りたいだなんて。

気が動転してたんだ。

一人ぼっちだったここ数日のことを思い出して悲劇のヒロインに成り下がって、あいつに涙を見せてしまった。

どうかしてないと、あいつのことを知りたいだなんて思うはずがない。



それに、知ったところでどうするの?
私には全く関係ない人じゃない。

それはこれからも変わらない。


今日、早速不動産屋を回ろう。
それから、また心配掛けちゃうのはちょっと気が引けるけど、施設長にも相談してみようかな。

住むアパートが見つかるまで置いてくれるところを探してくれるかもしれない。



「そうと決まれば」



被っていたタオルケットをバサッと勢いよく剥ぐとベッドから足を下ろす。

目覚まし時計に目をやると、時刻はちょうど6時を回ったところだ。

まだ早いけど、松永皐月が寝てる間に出て行こう。


よしっ、と変に気合を入れて立ち上がると、部屋の隅に置いてあった物が目に入った。


私の服や荷物だ。

リビングに置いてあったはずなのに、いつの間にか寝室に移動してある。


私がお風呂入ってる間に松永皐月が持ってきてくれてたのかな。最初から私にベッドを使わせる気で……


トクン、と胸が鳴る。


松永皐月の分かりにくい優しさ。

意地悪な事ばかり言うけど、あの人の心はきっと少年のように純粋だと思う。


…と、駄目よ駄目。あの人に惹き込まれたら終わりだ。考えないようにしなくちゃ。
戻れなくなる。


今も鳴り続ける胸を落ち着かせるように軽く深呼吸をすると、私は着替えを済ませて寝室を出た。

リビングのドアの前でドアノブに手を掛けると、ピタッと動きを止める。

この中に松永皐月がいる。



「大丈夫。平常心……平常心…」



ふーっと息を吐くと、ゆっくりとドアを開けた。




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