落ちてきた天使
「この辺に住んでたなら、ここに通ってたんだろ?」

「……そうだけど」

「何?来たくなかった?」



違う。来たくなかったわけじゃない。

急過ぎて気持ちがついていかなくて、何て言ったらいいかわからないだけ。


皐月は私の反応で察したのか、「降りるぞ」と言って先に車を降りた。

続いて私も車から降りて皐月の隣りに立つと、小学校を見上げる。



一年の時は確か二階の左から二番目の教室、一年2組だ。

それから、二年の時はその三つ隣。

職員室は一階の真ん中辺りで、保健室は一番右端だった。

校庭にはニワトリ小屋があって、遊具は登り棒に鉄棒。
あとジャングルジムにアスレチックがある。


小学校に上がった時はもうパパとママ、弟が事故で他界した後だった。

入学式には祖父母が来てくれたけど、二年に上がる前に祖父母に不幸が重なったため私は児童養護施設に入った。


二年の途中で転校しちゃったし、特別小学校の思い出はない。

覚えてるのは、初めての運動会や授業参観に親が来ない寂寥感だ。



「…そっか。今日は日曜日か」



当然、学校は休み。
元気な生徒がいない学校は、過去の私と同じで何処か心寂しく見えた。



「なぁ、お前ん家どっち?」



ずっと黙ってた皐月が言う。



「うちは正門の方」



ここは正門とは反対側にある裏門だ。
私が正門の方を指差しながら言うと、皐月はそっちに向かって歩き始めた。





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