落ちてきた天使
「ねぇ、皐月もこの辺に住んでたんだよね?」



皐月の後ろを歩きながらその背中に話し掛ける。



昨日、私と同じ時期に皐月も施設にいたって施設長が言ってた。


あの高台の芝生公園で会った事があるっていう微かな記憶もある。


何で施設に入ってたのか。


皐月は昔の私の記憶があるのか。


気にならないわけがない。



「ああ」



皐月はそれしか言わない。


その様子にハッとした。


もしかしたら……もしかしなくても、聞いちゃいけない事だった。


施設に入ってたってことは、それなりに良くない事情がある家庭に育ったってことだ。


私と同じで家族を亡くしたとか貧乏だとか、中には虐待を受けてた子もいる。


心に深く傷を負ってるハズ。


自分だって聞かれたくない事なのに……
私の方が無神経な人間だ。



「ごめん。今の無し」

「何だそれ。らしくないじゃん」

「だって…」

「もしかして何か勝手に妄想して気遣ってる?」



皐月はギクリと肩を揺らした私を見てハッと笑うと、「バーカ」と私の鼻を摘んで左右に引っ張った。



「別にお前に気を遣わせるほど、俺は病んでねぇよ」



それより、と皐月は前の方を指差すと、数メートル先に正門が見えた。



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