落ちてきた天使
皐月の声が店内に響いた。
店員や他の客が動きを止め、私達に好奇な眼差しを向ける。


レジで対応しようとしていた店員なんて、目を真ん丸く見開きながら気まずそうに私と皐月を交互に見ていた。




わかってる。
皐月は私のために言ってくれてるんだって。


家に連れて来てくれたのも、さっき寄り道してくれたのも、こうして服を買ってくれようとしてくれるのも皐月の優しさ。


それでもやっぱりこんなに沢山買って貰うなんて出来ない。そんな理由なんてないもの。


それに暫くお世話になるなら、これ以上皐月に迷惑掛けたくない。



「大きな声出さないでよ…」



グッと声を抑えて、皐月を見上げる。



皐月と喧嘩がしたいわけじゃない。


どうしたら私の気持ちがわかってもらえるんだろう。


長年、人と壁を作って接してきたから、私はコミュニケーション能力が人よりだいぶ低い。


だからこんな時、なんて気持ちを伝えたらいいのかわからない。



暫しの気まずい睨み合いが続いたあと、皐月は、はぁと息を吐くと髪をワシャワシャと掻いた。



「悪い。キツく言い過ぎた」

「皐月の気持ちは嬉しいけど、こんなに沢山買って貰う義理はないよ」



皐月は何か考えるように眉を寄せると、間を置いて「…わかった」と言った。



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