落ちてきた天使
「でもどうすんだ?今着てる服だけじゃ事足りないだろ」



皐月の言う通りだ。
私の服はこれしかない。


火事から免れた服も昨日の事件で敗れたり、水浸しになって着れなくなってしまった。



「出世払いってのはどうだ?」

「出世払い?」

「お前が稼ぐようになったら一回飯を奢ってくれればいい」

「でもそれじゃ、」



割に合わない、と口を開きかけた時、皐月の大きな手が私の頭にぽんっと置かれた。



「昨日も言ったけど、お前はもう少し甘える事を覚えた方がいい」



皐月はふわっと柔らかい笑みを浮かべる。


それは心を軽くしてくれるような笑顔で、不思議と何の躊躇いもなスーッと言葉が胸に入ってきた。



「なら条件がある」

「条件?」

「もう少し高校生の私の身の丈にあった服がいい。ここのは、今の私には不釣り合いだもん」



もう一度店内を見渡す。


服も靴も鞄も、何もかもが凄く素敵だ。
セクシーなものからシックなものまで揃ってる。


皐月がレジに置いたシルバーのハイヒール。
改めて見ると、光の当たり加減によって輝き方が変わって本当に綺麗だ。


いつかこのハイヒールが似合う女性になりたいと思うほどに。



「我儘な奴」と口角を上げる皐月。


その後、店員に謝りレジに持ってきた服を二人で片付けて店を出ると、別のお店で衣類や日用品なども買い揃えた。

そして軽く昼食を済ませてから家に帰ると、皐月はお風呂の向かい側の部屋のドアを開いた。




< 45 / 286 >

この作品をシェア

pagetop