落ちてきた天使
「ここ自由に使え」

「え?」

「どうせ使ってない物置部屋だし」



部屋の中を見ると、洋服ケースや開かずのダンボール、スノボ用品などが部屋の隅っこに置いてある。


皐月の言う通り、物置部屋として使っていたんだと思う。絨毯も引いてない殺風景な部屋だ。



「いいの?じゃあ、有り難くここの一角を借りるね」



居候期間は次のアパートが見つかるまでのつもりだ。その間、廊下にでもリビングの端っこにでも押入れの中でも寝かせてもらえれば十分だと思ってた。


だから、この部屋の一角を借りれるっていうのはかなり有難い話だ。



素直に喜びながら部屋の角に荷物を置くと、「バーカ」と謂れのない言葉が返ってきた。



「自由に使えっつったろ」

「ここ使わせてもらうよ?」

「だから、一角とかじゃなくて。この部屋はお前の部屋だって言ってんの」

「え……私の部屋?この部屋全部…?」



ぐるっと部屋を見渡す。


六畳はあると思う。クローゼットも広い。


物置部屋と言っても、埃はなくとても綺麗な部屋だ。



嘘でしょう?だって私、居候だよ?
こんな部屋、贅沢過ぎる。


昨日の夕方突然居候させてもらう事になって。


皐月からしたら私なんて迷惑な拾い物同然なのに……


そんな私のために部屋を与えてくれるなんて思ってもいなかった。



「そうだよ。ったく、何度言えばわかるんだ?」



そう言いながら、皐月は呆けてる私を見てくつくつ笑う。



「あとで俺の荷物は移動するから。クローゼットも使え」

「ありがとう……」



本当に勝手な思い込みだけど、皐月が歓迎してくれてるように思ってしまう。図々しいな私。



「皐月、ありがとう」

「っ、どう致しまして」



皐月はぶっきら棒に言った。
若干頬を赤くして、ふんと視線を逸らして。


10も年上なのにその姿が凄く可愛くて、私はふふふと笑ってしまった。




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