落ちてきた天使
持って来ていた少しの荷物と買った物を一通り整理し終えたのは夕方4時過ぎだった。



「これでよしっ、と」



数日前まで通っていた高校の制服を最後にハンガーに掛けると、ホッと息を吐く。



「ボロボロになっちゃったな…」



昨日、瓦礫の山と化したアパートから何とか掘り起こした制服は、所々破れ泥だらけになってしまった。



私の青春も終わりか……


制服を着られるのは高校まで。
私の中で“制服=青春”だなんて勝手なイメージがある。


例えば、制服デートしたり制服でカラオケに行ったり。


私には友達はいないし彼氏も欲しいとは思わないから、そんなの無縁なんだけど。


それでも、やっぱり少しはそういう事に憧れる。友情だの恋だのを諦めてる分、余計に。



はぁ…なんだか切なくなってきた。


私には青春なんて似合わない、そう不幸の星の王様に言われてるかのようだ。



しんみりとした気分の中、窓から空を見上げる。


太陽が昼間よりだいぶ位置を下げていて、もうそろそろ空が茜色に染まる時間になる。


久しぶりにあの木の上から夕日が見たい。
昨日は見れなかったから。



そうと決まれば。
私はスマホだけポケットに入れると、コルクボードに貼った二枚の写真に目をやった。


一枚はパパとママと弟と、事故に遭う数日前に四人で撮った写真。


この頃はまだ幸せで、この先不幸が続くなんて微塵も思ってなかった。



もう一枚は私の二人目のお父さんとお母さんと、三人で旅行に行った時の笑顔で溢れた写真。


この二枚は常に私が持ち歩いていたから火事で失うことはなかった。私の唯一の宝物だ。



「行ってきます」と写真の中の大好きな皆に声を掛けると、私は部屋を出た。


リビングを覗くと皐月の姿はない。


その代わりに、テーブルの上にキーホルダーも何も付いてない鍵とメモが置いてあった。




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