落ちてきた天使
町が茜色に染まる。


今日連れて行ってもらった昔の我が家に、自転車に乗った同い年ぐらいの子が帰って行くのが見えた。



もし家族がまだ生きていれば、まだあの家で暮らしてたかな。


今家に入って行ったあの子のように、自転車で学校に行って。


弟とギャーギャー喧嘩して。


お母さんと花壇で育てたトマトをもぎ取って。



想像するだけで胸の奥が温かくなってくる。


こんな風に思えるようになるなんて思いもしなかった。


これも全部、皐月のお陰……かな。



「皐月って一体何者なんだろ」



仮にもこれから一緒に生活していくのに、皐月のこと何も知らない。


年齢とか何をしてる人なのか、とか。


付き合ってる人はいるのか、とか。


施設で一緒だったみたいだけど皐月は覚えてるのかな、とか。


どうして私を助けてくれるの?


昨日のキスの意味は?


愛おしそうに私の名前を呼ぶのは何故?



どんどん皐月に聞きたいことが頭に浮かんでくる。


どうせ聞いたってまたはぐらかされるに決まってるんだけど。



皐月のことを考えながら溜め息を漏らした時。



「また落ちんなよ」



もう聞き慣れた声が下から聞こえてきて、ドキッと心臓が跳ね上がった。


目をやると、皐月が木の下で腕を組みながら私を見上げている。



「どうして此処が?」



ドキドキし過ぎて声が上擦ってしまう。


ああ!なんでキスのことを思い出しちゃったんだろう。


一回意識したら、もう遅い。
視線が皐月の口元に行ってしまう。



皐月は察しがいい。
こんな真っ赤な顔を見られたら何を思い出していたかバレてしまう。


私は不自然にふいっと視線を逸らした。



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