落ちてきた天使
「お前の行くところと言ったらいつも此処だっただろ」

「え……いつも?」



確かに私は施設にいた頃、何かあると此処に来て夕日を眺めてた。


泣きたい時、無心になりたい時。


此処から夕日と、そして茜色に染まる我が家を見ながら家族を思ってた。


でもどうしてそれを皐月が知ってるの?



「俺もそっち行っていい?」



皐月の思い掛け無い言葉に「へ?」と素っ頓狂な声が漏れる。


皐月は私の答えなんて当然待つはずもなく、「よっ」と木に足を掛けた。



「ちょっ、ちょっと…ダメダメダメダメ」



今来たら駄目だってばっ!


私、まだ顔中に熱が残ってる。さっき程ではないけど、赤くなってるはずだ。


だけど必死で止めるのも虚しく、皐月は猿のように軽々と登り私の隣りに座った。



「久しぶりの木登りって結構キツイな」



ふぅ、と息をつく皐月は空を見上げた。


一瞬で頬を緩め、柔らかな笑顔を浮かべる皐月。


まるで無邪気な子供のようだ。



「うっわ……懐かし」



ああ、ヤバイ……
また頬や耳の温度が上がっていく。


止まれ止まれ止まれ!
頭の中で繰り返し唱えても、私の願いに反して急上昇していく体温。


皐月のせいだ。
不意打ちで、あんな笑顔見せるから……




地平線に夕日が沈み始める。


どうか、燃えるような夕日が私の真っ赤な顔を隠してくれますように。


そう願わずにはいられなかった。



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