落ちてきた天使
やっと落ち着いたばかりなのに、また心臓が騒ぎ始める。


皐月の話に出て来る女の子。それはきっと……



「お前だよ、彩」



皐月は私を見据えた。
優しさと切なさが入り混じった瞳だった。



「施設に帰ったらお前がいた。木の上で見た笑顔とは違う。無理して笑ってた。まだ小さいくせに周りに気を遣ってばっかで目が離せなかった」



そう、施設に入った頃の私はもう気付いてた。


私の運命。不幸の星の下に生まれたんだと。



一気に大切な人達を失った小さな私は、必死で人と距離を置こうとしてた。


そうしないと自分が壊れてしまいそうだったから。


でもまだ幼かった私は、上手く壁を作ることが出来なくてよくここで泣いてたんだ。



「度々ここでお前を見掛けたよ。ここでのお前が多分、本当のお前なんだと思った。弱くて、怖がりで、寂しがりで。だけど、誰よりも欲張りだ」

「…欲張り?」

「話し掛けると、微かだけど嬉しそうに口元が綻ぶ。人が楽しそうにしてると羨ましそうに見てる。それは人の温もり、愛情を欲してる証拠だ。人から距離を置こうとしてるけど心は違う。触れ合いたくて仕方ないんだ。だから、言葉と行動、心が全然噛み合ってない。不安定過ぎる」



皐月の言葉が胸を突いた。


皐月の言った通りだ……


もうあんな想いしたくないから人と必要以上に関わりたくない。


だけど本当は、幸せになりたい。


友情も愛情も欲しい。


絶対無くならない物が欲しくて堪らなかった。


その想いは誰よりも強いと思う。



「これでも施設では結構お前の面倒見てたんだぜ。勝手に兄貴のような気持ちになって。まぁ、お前は必死で人を遠ざけてたから俺のことも覚えてないんだろうなって思ってたけど」

「…ごめん、覚えてない」



「思った通りだな」と、皐月はふっと苦笑いを漏らす。


だけどすぐに真面目な顔に戻って話を続けた。





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