落ちてきた天使
『サイズ分からなかったから適当に選んだ。もし合わなかったら言って』

『これ皐月が?』

『言っとくけど、転入試験の合格祝いだから』



そう言って、私に背を向けると皐月は木の根元に置いた買い物袋を持って歩き始めた。



バカ皐月…


転入試験の合格祝いだなんて嘘。


そう言わないと、また私がうるさいと思ったんでしょう。



ホント、変な人。


絶対的な愛をくれてやる、だなんて恥ずかしいことはハッキリ言うくせに、こういう優しいことははぐらかそうとする。


意地悪で強引で獣みたいに目を光らせて迫ってくるくせに照れ屋な可愛い一面もあって。



困る……引き戻せなくなる。


大切な人は作りたくないのに、私の決意とは反対に皐月の存在が大きくなっていく。


それも、思い掛けないスピードで。


『皐月‼︎』と、その背中に呼び掛ける。


振り向いた皐月に『ありがとう!』と叫ぶと、皐月は太陽のように笑ったーーー。






「嬉しかったよ……凄く」



少しだけ齧った食パンをそっと皿に戻すとボソッと呟くように言った。


ネクタイを結び終えたとき本当に嬉しかった。


他の人からしたら些細な事かもしれない。


でも、何もかも失った私には“些細な事”が“重大な事”のように感じるんだ。



顔を上げられない。


朝から…いや、厳密に言うとキスをされた時から、ずーっとドキドキさせられっぱなしで。


それだけならまだしも、不意打ちの優しさまで打ち込まれて。


もう戦闘不能。どんな顔すればいいの?


不幸の星に生まれた私には、皐月は強大過ぎて太刀打ち出来ない。


涙腺も自分を守るために建てた壁も、あっさりと壊されてしまった。


今、鏡を見たらきっと凄く凄く情けない顔してると思う。


涙を堪える為に眉間にグッと皺を寄せながらも嬉しくて頬が緩みっぱなしの阿呆面。


こんな顔、見られたくない。





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