落ちてきた天使
「そんなわけないだろ?そんなんで朝早くからこんなトコ来るほど俺は暇じゃない」



馬鹿じゃねえの、と言わんばかりに鼻で笑うと、皐月はソファに座るなり私を見ずに言った。



「挨拶すんのは当たり前だろ」

「挨拶?」



挨拶って校長先生に?
なんで皐月が?何のために?



頭の中に次々と疑問が湧く。


だけど、それを聞く間もなく校長先生が慌てた様子でドアを開けた。



「お待たせして申し訳ありません」



皐月はスッと立ち上がると、背筋を伸ばして校長先生と向き合った。



「初めまして、松永皐月と申します。こちらこそ、突然お伺いしまして申し訳御座いません。今日は矢嶋の保護者としてご挨拶に参りました」

「校長の鈴木です」



校長先生は皐月に「どうぞ」と座るように促すと、「早速ですが」と話を切り出した。



「矢嶋さんの家庭事情については把握しておりますが、保護者と言うのは?」

「はい。矢嶋の法定代理人は児童養護施設の施設長が代行しておりますが、現在矢嶋は施設長の許可のもと私が預かっております」

「と、言いますと?」

「矢嶋が入居予定だったアパートが急遽入居出来なくなってしまい施設にも空きがなかった為、うちで預かる事になりました。休みの間の出来事で校長先生にご連絡出来ず、事後報告となってしまいました。申し訳ありません」



皐月は座ったまま頭を下げた。


ニコちゃんマークを貼り付けたような笑顔といつもより聴きやすくて高い声。丁寧な言葉遣い。


校長先生にまっすぐ向かい合い、堂々とした態度は爽やかな好青年という印象だ。


これが皐月のよそ行きの顔……



皐月が私の保護者というのも寝耳に水の話だけど。


それよりも、いつもとはまるっきり違う、初めて見る皐月の一面に驚きを隠せずポカンと半分口を開けてその横顔を呆然と見つめた。



二人が話してる事は私のことなのに皐月のせいでまるで話が入って来なかった。



「ですが、どうして松永さんが?」

「実は、私も同じ施設の出身なんです。同時期に入所していて、矢嶋とは言わば兄妹のように生活しておりました」

「そうでしたか」





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