落ちてきた天使
「河合彩でしょ?小学生の時、施設にいたよね」



もう一度男子に目を向ける。


施設にいたのを知ってて私をあーちゃんって呼ぶって事は、つまりこの人も……



「覚えてない?俺だよ、俺」



自分を指差して俺俺言う男子。


全く覚えがない。というか、施設長以外誰の事もハッキリと記憶にないんだけど。


まさか新手の俺俺詐欺?なんて思ってしまう。



「誰だよお前って顔してる」



何が楽しいのか、男子はハハッと声を上げて笑うと「俺はすぐに分かったのに」と私の方に身体を向けるようにして座り直した。



「前川洋平。唯一の同級生で一緒に登下校した仲じゃん」



一緒に登下校……?


頭をフル稼働させて十年前の記憶を掘り起こす。


前川洋平……前川…洋へ……



「……っあ」

「おっ!思い出した?」

「もしかして、くるくるパー子のよーへー?」



そうそう、確か施設に一人そう呼ばれてる男子がいた。


生まれながらの綺麗な栗色のふわふわ天然パーマで、女の子のように顔も声も仕草までもが可愛らしくて。


学校でよくガキ大将みたいないじめっ子にからかわれてたっけ。


パー子は女子トイレだろ、とか言われると、『違うよ!僕、男だもん!』って、泣きそうになりながら反論して。


帰り道、いつもいつも悔しいって震えてた。


よーへーをいつも慰めるのが毎日の下校時の習慣みたいになってたんだよね……


でも……目の前にいるこのチャラそうな男子が、本当にあの可愛かったよーへーなの?



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