落ちてきた天使
「その呼び方懐かしいな」

「あ、ごめん。嫌だよね」



あんまり良いあだ名じゃないし、嫌な気になるよね。


でも、よーへーは「別にいいって」と気にするどころか笑って見せた。






「俺、まだ施設暮らしなんだ」



昼休みになると、よーへーは私の手を半ば無理矢理引っ張って屋上に連れて来た。


皐月が作ってくれた弁当を広げ、私好みの甘さの玉子焼きにうっとりしつつ、よーへーの話に耳を傾ける。



「一回里親に引き取られたことあったんだけど。なんつーか…合わなくて。結局施設に連れ戻されてさ、今じゃもう一番の古株」



結構悲しくて辛い話だと思うのに、よーへーは何ともないように笑って話す。



「でも、それももうすぐ終わり。高校卒業したら施設を出て独り立ちしなきゃならないしな」



そう、児童養護施設入所者は18歳になったら施設を出なければならない。


特別な理由がない限り、大抵の人が高校卒業と同時に施設を巣立つのだ。



「だから今必死に就活中」



ニヒッと笑うと、よーへーはパンを頬張りながら「なかなか厳しいけどな」と空を仰いだ。



「で、あーちゃんは今何処に住んでんの?里親に引き取られて、河合から矢嶋になったんだろ?」

「あー…うん。そうなんだけどね」



“里親”という言葉に胸が激しく痛む。


先日の火事で家は全焼。
それは骨組みだけを残して全てを焼き尽くした。


急に何もかも無くなってしまった私は一人で生きて行く為にここに戻ってきた。


だけど、失ったのは住むところだけじゃない。


私を引き取ってくれた里親ーー、お父さんとお母さんも、火事で失くしてしまったのだ。



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