落ちてきた天使
「今は知り合いの所でお世話になってるの」



あは、と苦笑いを浮かべると灰色のコンクリートの床に視線を移す。



あの火事を思い出して鼻の奥がツンとした。



夢にも見る業火。


その中で最後に見たお父さんとお母さんの笑顔……



少しでも思い出すと、自分が壊れてしまいそうで。


苦しくなる…


呼吸も、どうやって立っているのかもわからなくなる。


必死に唇を噛んで自分を失わないように堪えていると、ふわりと心を軽くするような優しい声が聞こえた。



「ごめん。無理に話してくれなくていいから」



私の様子で察してくれたのか、よーへーはすぐに話を変えてくれた。


しつこく聞くことなく、気まずい雰囲気にもならず、くだらない話をして私を笑わせてくれる。



ホッとした。


まだあの火事のことを話せるほど、全てを整理出来たわけではない。


私が家族を失くしたのは二回目だ。


立ち直るにはかなりの時間が必要だと思う。



よーへーはそんな私の踏み込まれたくない一線に気付いて、そっとしておいてくれたんだ。


長年施設に入ってる分、人の隠の部分に敏感なのかもしれない。



「よーへー、ありがとう」



昼休み終了間近、ポツリと言うとよーへーは「ん」とだけ言って微笑んだ。




「それにしても、もうあーちゃんって歳じゃねぇよな。俺もそのよーへーって言う気の抜けたような感じハズいし。普通に洋平って呼んで。俺も名前で呼ぶから」

「うん」



よーへー、改め洋平は、私の返事に気を良くしたのか「よしっ」と私の頭に手を乗せると豪快に髪を撫で回した。






「学校どうだった?」



夜7時半。
向かい合ってご飯を食べながら、皐月が聞いてきた。



今日の夕飯は豚の生姜焼きだ。


夕方6時ちょっと過ぎには家に帰ってきた皐月がササッと作ってくれた。


生姜が程よく効いていて凄く美味しい。


私も料理は下手ではないと思うけど、ここまで美味しくは作れない。


毎食驚かされっぱなしだ。





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