落ちてきた天使
「大丈夫だ。俺がいる」



そう言って、皐月は髪を撫でる。



気持ち良い。凄く安心する。


さっきまでパニック状態だった呼吸も頭の中も、皐月の優しい手によって落ち着きを取り戻していく。


心が軽くなっていく、そんな感覚がして。


私は身体を皐月に預けて、目をゆっくりと閉じたーーー……






微かに「彩?」と囁くような柔らかな声が聞こえ、同時にトントンと背中に軽い振動を感じた。



「ん……私、寝ちゃってた…?」



皐月に寄り掛かっていた身体を起こすと、目を擦る。


頭が寝起きの時みたいにぽわんとして、少し痛い。



「ちょっとな。もう動いて平気か?もう少し寄り掛かっててもいいぞ」



私の右頬を手で覆いながら顔を覗き込んで言う皐月に、「ううん、もう平気」と子供のようなふにゃふにゃ声で答えた。



「なんか飲む?」

「うん」

「お腹空いてるだろ」

「少し」

「体調悪くないか?」

「頭が少し痛い」

「吐き気は?」

「ないよ」



矢継ぎ早に飛んでくる質問。


テンポよく繰り出されるそれに、いつの間にか私も同じリズムで返してることに気付いて、思わず「ふふふ」と笑ってしまった。



「何?」

「皐月、お母さんみたいなんだもん」



体調が悪い時とか落ち込んだ時、ママもお母さんも皐月みたいに世話を焼いてくれた。


いつも優しいんだけど、いつも以上に優しくなって。私もいつも以上に甘えちゃって。


今の皐月はそんな感じだ。



「ああ、それは光栄だな」



心配そうな顔をしていた皐月は表情を緩めて言うと、食器棚からコップを取って冷蔵庫に入っていたお茶を注いだ。



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