落ちてきた天使
気になる。
だけど、こんなこと聞けるわけがないし、聞けたとしても皐月ははぐらかすだけだと思う。


私だって、聞いてほしくないことばかりの人生だし…



「何難しい顔してんだよ」



皐月は私の額を人差し指でツンッと強めに押した。


然程痛くもないのに「あ痛っ‼︎」と押された額を手で覆うと、皐月がいつもの意地悪な顔でふっと笑った。



「またつまらねぇことアレコレ考えてたんだろ?」

「…っ、別にそんなんじゃないし」



図星を突かれ、一瞬口籠ってしまった。
その反応を皐月が見逃すわけもない。



「もう過去のことだ。お前がそんな顔する必要なんてない」



確かに、皐月はいつも通りだ。
意地悪そうな顔も声のトーンも変わったところはない。



だけど、本当にそうなのかな。


もし愛情の問題だったとしたら、過去の事だとそう簡単に割り切れる事じゃないと思う。



だって、家族って…かげがえのないものでしょう?


私だったら普通でなんていられない。


それとも、皐月ぐらいの歳になったら……
大人になったら、私も考え方が変わってしまうんだろうか。



「とにかく、そういうことだから家賃はいらない。理に適ってるだろう?」



皐月は父親の話は終わりと言わんばかりに、やや声を張り上げた。



「けど、皐月の家の一部屋を間借りするんだし、そもそも食費と光熱費合わせて一万なんて安……」

「今の条件飲まないとバイトは禁止だ。どうする?」



私に被せて言う皐月の目は至って本気だ。
この条件を飲まないと、本気でバイトはさせてもらえなさそう。


それなら、飲まないわけにはいかないじゃない…



「…わかった。その条件飲みます」



それに、かなり助かるというのが正直なところだ。


私は居住まいを正すと、皐月の目をスッと見据える。



「お世話になり始めてからだいぶ時間が経ってしまいましたが、これからどうぞ宜しくお願いします」



本来、初日にちゃんと挨拶しなくちゃいけなかったのに、ずるずると今日になってしまった。


頭を深く下げる。


微かだけど、皐月が笑った気配がした。




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