偽悪役者
玲斗は帰宅しようとした矢先に飛び込んできた親子の診療を無事に終え、改めて帰宅しようとしていた。



準備を進めながら思い返すのは昼間小耳に挟んだ、静音が重要参考人として事情を聞かれているらしいとの事。


琅提から電話があって、信じると答えたものの、憶測だけで真実が分からない。



ただ、言えるのは。



「(僕達は間違ってたってことだ。気付いているのに逃げて、楽な道を選んだ。その行為が傷付けているのを分かってて。)」



渡した指輪は填められることなく、箱に入ったまま返された。




勇気は要らない。

覚悟だけだ。







「………………。」



機械音が響く病室。


ベッドに横たわる岨聚を見つめるのは、仕事帰りに立ち寄ることが常の鏡鵺だ。



「(俺は、俺達はもう……後戻りなんて出来ない。だったら、いっそのこと……)」



いつも思い出すのは、天国と地獄。



戻れるならと何度思ったことだろう。


けれど、戻ったとしても結局は同じになるのだろうとも思う。


今がそうなのだからと、玲斗は静かに病室を後にした。




勇気も覚悟も要らない。

総ての事を終わらせるだけだ。
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