偽悪役者
「すまんな、色々。」


「いえ。橘から目を離した俺の責任ですし、千影鏡鵺が潜んでいたのにも誰一人気付きませんでしたし。椎名さんは何というか……まぁ、丸く収まったようで良かったです。」



篠宮と来栖は、鏡鵺が自分達の存在を知らないにも関わらず隙を付く形で静音への接近を許し、しかもお互いに、お互いの相棒を止められなかったと自らの注意力の無さに、これまたお互いに呆れた。



「千影鏡鵺を見失った件については、こちらできっちり処分を検討しますので。」


「……まあ、ほどほどに。」



この場にも来させてもらえなかった卍擽は、厄塒の相当な怒りを買ったようだ。


厄塒は落ち着いているように見えるが、顔が強張っていてまだ怒りが収まらないらしい。



篠宮は刺激しないように、来栖にいたっては会釈で返した。



「椎名さん、行かなくていいんですか?あれだけ啖呵切ったのに。」


「啖呵って喧嘩じゃないんだけど……いいよ、今は。」



遠目に見る静音と玲斗。


自分には決して割り込めない絆がそこにはある。



だけど、自分の言葉が、想いが、届いて嬉しかった。


告白よりも、とても意味のあることだから。
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