偽悪役者
いつもなら橘と一二を争うぐらいに食べ始める静音は、戻って来てから挨拶以外一言も喋っていない。


クッキーを目の前にしても、心ここに在らずといった感じだ。



「え?ああ、大丈夫。ありがとう。」


「柊が同窓会行かないって言った理由分かったわ。あれ、完全にいじめだよねー。」



ピシッとヒビが入るように、一瞬にして空気が凍る。


しかし言った張本人の橘は、そんな空気に全く気付くことなくクッキーにパクついている。



「橘……、お前がここまで空気が読めない奴だとは思わなかったな。」


「私でも言わなかったのに。無知って罪よね。」



静音の様子に篠宮や要、都澄でさえもいまだ何も言わないのは余程のことだろうと、来栖達は深く聞こうとはしなかった。


轢夲も社会的常識は一応持ち合わせているので、空気を読むことだってある。



「…気を使わせてすみません。でも、あれは自業自得のなんで、しょうがないんです。岨聚達は悪くない。……係長、ちょっと寒気がしてきたので、帰ってもいいですか?」



嘘か真か。


そう言って笑う静音の顔は、玲斗に見せた表情と同じだった。
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