偽悪役者
「おじさんの奥さんな、悪い人の車に轢かれて死んでしまったんだ。もちろん、その悪い人はお巡りさんが捕まえた。でもな、おじさん、お家に帰っても一人ぼっちだから、こうやって君が話し相手になってくれて嬉しいよ。」



話し相手といっても、現実には篠宮が一方的に話しているだけなのだが。


それでも、仲間内に話すのを躊躇ってしまっていた妻がいなくなって寂しいことをこんな穏やかに言えるなど思ってもみなかった。



「ひとり、ぼっち…?篠宮さんもひとりなの?ここにたくさんいるのに。」


「…ああ。確かにここにはたくさんいるけどな、お家じゃ一人なんだ。君みたいな子供は、おじさん達にはいなかったから。」



一人ぼっち。


篠宮が言ったその言葉に静音は反応して、彷徨っていた視線が重なる。



「おじさん『も』って言ったけど、君のお家にも誰もいないのか?」



篠宮の言葉に、静音は小さくコクリと頷く。



「お父さんは事故で、お母さんはこの間病気で。だから家には誰もいない。」


「お母さんの入院していた病院の名前分かるか?」



会話の流れをさりげなく利用して、名前より先に病院名を聞き出した。
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