偽悪役者
「季更津……!」


「お前のことだったんだな、柊静音。」



ニヤリと笑う季更津が、静音の目の前に佇んでいた。



「なんで私の名前、知ってるの?」



「男が面白可笑しく話してたの聞いてよぉ。ペテン師夜鷹は、実は警察官だってな。そこからは容易かったぜ。」


「(あのお喋り先輩っ…!!)」



季更津の言う男は十中八九、卍擽のことだろう。


呆れと共に怒りが沸いて、静音は頭が痛くなる。



「私に何の用?自首するなら手を貸すけど。」


「自首ねぇ…。それは俺のセリフじゃねぇのか、ペテン師夜鷹?俺のシマを荒らしやがってよ。」



「荒らした?取り締まりのこと?貴方達のことは担当外だけど、警察官なら当たり前だと思うけど。」


「しらばっくれんなよ、同業者。おかげで商売あがったりなんだよ。」



「それはお気の毒様。」



静音も季更津も、落ち着いた口調で話す。


しかし、思惑は言葉とは裏腹だ。


その証拠に、季更津は話ながらもどんどん間合いを詰めて来て、その度に静音は下がるが、何せ場所が悪い。



ホテルの裏手に当たるこの道の幅は狭く、季更津の横をすり抜けることが出来ないのだ。
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