偽悪役者
「ああ……気の毒だろ?だから責任取れよ、このアマっ!!」


「っつ………!!!」



季更津の攻撃をギリギリで静音は避ける。



大通りから離れ人少ないホテル街とはいえ、拳銃を持っていたとしても後処理のことを考えて発砲はしないだろうと、静音は思っていたのだが。



季更津が静音に放ったのは弾丸ではなく、右ストレートだった。



「ヤクザがタイマン?珍しい。」


「俺はこっち派なんだよ。拳から感じる肉や骨の感触……ああ、堪らねぇよ。だからよぉ、早くお前のも感じさせてくれよ?」



季更津にとって殴ることが快感らしく、拳の間から見えるその表情は恍惚としている。



痴愚思は分からないが、季更津の身勝手な言動からみて、季更津が莉央と深緒を殴ったのは間違いない。



「おら!どうしたよ?避けてばっかじゃ面白くねぇよ。あいつらみたいにもっと抵抗しろよ!」



殺り甲斐がねぇ。



そう言いながらも振るい続ける拳の勢いは止まらず、心底楽しそうに季更津は笑う。



静音が警察官ということを考慮しても、男女の体格差がある為、狭いこの道では避けるだけで精一杯。


静音にとってはかなり不利な状況だ。
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